さわやか高の原健康情報

2021.12.01

知っておきたい大動脈瘤の話

大動脈瘤とは

大動脈は心臓から全身に血液を送り込む太い血管で、上行大動脈→弓部大動脈→胸部下行大動脈→腹部大動脈へと続きます。
大動脈は外側から外膜、中膜、内膜で構成されています。動脈瘤とは、大動脈壁の一部が、全周性または局所的に拡大または突出した状態、すなわち直径が正常径の1.5倍、胸部なら45㎜、腹部なら30㎜以上になることを言います(図1)。

大動脈瘤には真性大動脈瘤、大動脈解離、仮性大動脈瘤があります(図2)。その発生する場所によって基部拡張症、上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、下行大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、腹部大
動脈瘤があります(図3)。

大動脈瘤は、無症状なため治療のタイミングが難しく、病識がないため放置されることが多いです。

また、通常の単純X線写真等では大動脈瘤の存在を認識できない場合も少なからずあります。以上の理由で大動脈瘤は偶然発見されることが多く、破裂してからの治療はショック状態からのスタートとなり、死亡率が非常に高いのが特徴です。

大動脈瘤は、縮小することはありません。
経時的にCT検査でチェックし、拡大傾向を認める場合には要注意であり、早期の手術が望ましいとされています。ポイントは破裂していない予定手術が肝要です。

大動脈瘤が破裂する兆候として、胸部大動脈瘤の場合は激烈な胸部や背部の痛み、血痰、呼吸苦、嗄声、嚥下障害が挙げられます。腹部大動脈瘤の場合は、激しい腹痛や腰痛があります。

大動脈瘤の治療

大動脈瘤の治療法としては、人工血管置換術、ステントグラフト内挿術、ハイブリッド手術があります(表1)。

人工血管置換術の最大の利点は高い根治性です。
しかし、手術侵襲が大きく、入院期間が延びる傾向があり、ハイリスク症例では手術不可能等の欠点があります。

一方、ステントグラフト内挿術は手術侵襲が小さく入院期間は短縮でき、ハイリスク症例にも対応できる利点があります。

ただし、リーク等の合併症が生じる場合があります。
また、どちらかの方法だけでは困難な場合、双方の手技を併用することで、治療を完結できるのがハイブリッド手術であります。

いずれの治療を選択するのかは大動脈瘤の種類、患者さんの背景(年齢・日常のADL・基礎疾患の有無等)を検討して決定致します。

胸部大動脈の正常径は30~40㎜ですが、動脈瘤になると45~50㎜に拡大し、さらに拡大すれば手術適応となります。
腹部大動脈の正常径は20~25㎜ですが、動脈瘤になると30~ 40㎜に拡大し50㎜以上では手術適応となります。また、半年で0.5㎝以上拡大する場合も手術適応となります。ちなみに腹部大動脈瘤の推定年間破裂率は、4㎝未満では0%ですが、5㎝を超えた段階で急激に破裂のリスクが高まります。

急性大動脈解離について

大動脈解離とは、大動脈内膜から中膜に亀裂が生じ、大動脈が長軸方向に裂ける疾患です。
A型、B型の2タイプがあります(図4)。発症すると、突然の胸背部痛やそれ以外の諸症状が認められます。つまり、意識障害、上肢冷感、胸痛、背部痛、
腰痛、血圧低下、下肢冷感、運動障害等、各臓器への影響が出ます(図5)。

意識消失は、心タンポナーデによる血圧低下、頸動脈の解離が原因ですが、一過性の脳虚血発作や脳梗塞と診断される場合があります。

上肢冷感は鎖骨下動脈の解離が原因ですが、上腕動脈血栓症と診断されることがあります。
腹痛は上腸間膜動脈の解離や腹部大動脈の解離が原因ですが、消化性潰瘍、急性膵炎、上腸間膜動脈血栓症と診断される例があります。

乏尿・無尿は腎動脈の解離が原因ですが、腎梗塞と診断される場合があります。
腰痛は腹部大動脈の解離が原因ですが、尿管結石、急性腰痛症と診断される例があります。
下肢の冷感は、腸骨~大腿動脈の解離が原因でありますが、大腿動脈血栓症と診断される場合があります。

年齢・性別の発症頻度は、男性では40歳を過ぎたころから、女性は45歳を過ぎたころから増加する傾向があります。

急性大動脈解離は何の兆候もなく突然発症し、動脈硬化、高脂血症、喫煙、ストレス、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、遺伝等が原因とされています。発症は冬場が多く、夏には少ない傾向にあります。

また活動時間の日中に多く、深夜から早朝には少ない傾向です。
A型解離は緊急手術によって心停止を招く大動脈破裂を回避致します。B型解離は降圧等の保存的治療が通常選択されます。

日常生活の注意点

大動脈瘤と診断されたら、または手術後は日常生活において注意すべきことがらがあります。生活習慣病に準ずるものですが、季節の変わり目や低気圧の接近時に無理しないことが大事です。大動脈瘤は決して珍しい病気ではありません。

がんなどの慢性疾患は、家族との貴重な時間を共有できますが、大動脈瘤破裂は待ったなしの突然の別れとなります。

高血圧・糖尿病・高脂血症と診断された方、家族に心臓病・大動脈疾患をお持ちの方、過去に一度もCT検査を受けていない方は、心エコー及び全身CT検査を受けましょう。

高の原中央病院 心臓血管外科
部長 金田 幸三